「マイケル…」

「何……?」

「うん…たいしたことじゃないんだけどな……」



それは、自分でも驚く程、衝動的な考えだった。
オフィスに来て、真面目に仕事をしていたつもりだったのに、ちょっと時間が出来ると自然と野々村さんのことを考えていたようだ。
俺は、マイケルに、野々村さんに仕事を辞めてもらったらどうかと持ちかけていた。



「一体、なぜなんだい?
野々村さんとなにかあった?」

「そういうわけじゃないんだ。
ただ…最近、美幸は野々村さんと親しくしてる。
だから、仕事の内容を美幸に話されたら……」

「カズ……そんなこと、野々村さんは言わないって。
だいたい、口止めしてなくても野々村さんは美幸ちゃんには何も言ってないんだろ?
だったら、大丈夫だよ。
あの人、口は堅いと思うよ。
それに、気になるなら口止めしておけば良いだけの話だし、それ以前に、知られたって別になんてことないじゃない。」

「……そりゃあまぁそうだけど……」



自分でもなぜそんなことを言ってしまったのか、よくわからなかった。
ただ、急に野々村さんと関わりたくないと思ってしまって、言った後で自分でも戸惑って……

だから、マイケルが反対してくれた時は妙にほっとした。



「そんなことを考えるなんて、カズらしくないな。」

「美幸が来たからな…
今までのようにはいかないさ。
あ、そうだ、マイケル…
俺の女性関係のことは、美幸の前では大っぴらに言わないでくれよ。」

「そうなの?
だって、美幸ちゃんも子供じゃないし、兄妹なんだから…」

「日本人はそういうことは隠すもんなんだ!頼んだぞ!」



適当なことを言って、俺は無理にマイケルをまるめこんだ。
そして、忙しくもないのにパソコンに向かって忙しなくキーボードを打ちこむ。



(なんであんなことを言ってしまったんだろう…
仕事とプライベートとは別…
たとえ、俺が野々村さんにちょっとしたわだかまりを持っていても、仕事には何も関係ない事だ。
彼女はとてもよくやってくれている…)



そう考えた時、先日のイギリスでの話を思い出した。
あの時は、俺の心の中をわかってくれてるとなにか照れ臭いけど嬉しいような想いがしてたのに、今はそのことが不快に感じる。
勝手に俺の心の中を見透かされてしまったような不安から生じる不快感……

俺がこれほど感情に左右される人間だとは……自分でも今まで気付いていなかった。