(……どうして……)



俺は咄嗟に引き返し、店の外に出た。
俺には逃げる必要なんてない…
なのに、まるで悪いことでもしたかのように慌てて外へ飛び出し、鼓動は速まる…
そのことがても腹が立つと同時に、なぜ、美幸がいないのかが急に気になった。



「カズさん!」

俺が美幸に電話をかけようとしている所へ、アンリがやって来た。



「あ…あぁ……」

元々、今夜はアンリと会いたい気分ではなかったが、とりあえず、車の中で待ってもらうようにして、俺は少し離れた場所から美幸に電話をかけた。



「はい。」

「美幸、今、どこだ?」

「今?自分の部屋だけど…どうかしたの?」

美幸は家に戻っていた。
……と、いうことは……



「おまえ、今日は野々村さんと食事に行ったんだよな?」

「う、うん、そうだよ。」

「……帰りは別々だったのか?」

「え?う、うん。
野々村さんは買い物かなんか用があるらしくって、私は先に帰って来たんだ。」

「……そうか。」



野々村さんが今日わざわざ会社に来たわけがようやくわかった。
おそらく……野々村さんは大河内さんと会う約束をしていたが、大河内さんに急な用が出来、それまでの時間潰しに美幸は利用されただけなんだろう。
それが悪いとは言わない。
そんなこと…誰だって一度や二度はやったことがあるさ。
なのに……やけに苛々してしまうのはなぜだろう…




「兄さん?……どうかしたの?」

「……いや、なんでもない。
……今夜はちょっと遅くなるかもしれないから……あ、良い。
俺からマイケルにかけるから…じゃあな。」

俺はそう言うと、一方的に電話を切って、今度はマイケルに電話した。
今夜はアンリと会うから、帰りは遅くなると……
わざわざ理由を言うこともなかったが、ついそんなことを言ったのはちょっとした見栄だったのかもしれない。



本当は、すぐに帰るつもりだったのに…
自分でも驚く程の、急激な心変わりだった。
ただ、家には帰る気がしなくて……だから、アンリと付き合うことに決めた。



「アンリ、待たせたな。」

俺が戻ると、アンリは小さく頷いて嬉しそうに微笑んだ。