「美幸ちゃん、昨夜はどこに行ってたんの?
ずいぶん遅かったね。」

「え……」

アッシュの言葉に、美幸の表情が俄かに強張った。



「美幸……昨夜はそんなに遅かったのか?」

「う、うん…野々村さんとごはん食べて、ちょっと二人でぶらぶらしてたら偶然おじいさんに会って、それで、三人でカラオケに行って盛りあがっちゃって……
で、でも、遅くはなったけど、帰りはおじいさんと一緒にタクシーで帰って来たし、何も危ないことはないよ。」

美幸は目を伏せ、おどおどと答える。



また、大河内さんか……
しかも、偶然会っただと…?
どうせ、最初から三人で会う事に決めていたんじゃないのか。
もしかしたら、大河内さんは野々村さんと二人で会うつもりだったのかもしれないが、美幸が野々村さんを誘ったから仕方なく三人で会ったということかもしれない。




「大河内さんにあんまり迷惑かけるんじゃないぞ。
大河内さんは親戚でもなんでもない。
ただのご近所さんなんだからな。
良いか……大河内さんとのつきあいはたいがいにしておけ。」

「……わかってるよ。」



大河内さんの名前を聞くと、なんだかとても苛々とした気分になった。
本当はそんなに遅くまで遊ぶなとも言いたかったのだが、昨夜は、つい成り行きで合コンで知り合ったモデルと朝まで過ごすことになってしまい、明け方に帰って来た。
美幸もそれは知ってるんだし、そんな俺が夜遊びをするなと言っても説得力がなさすぎる。
だからこそ、我慢したんだが、言えない事で苛々はさらに募った。



「カズ、たまには良いじゃない。
KEN-Gや野々村さんと一緒なら心配いらないよ。
それに、KEN-Gはお金に細かい人じゃないから、美幸ちゃん達と遊ぶお金のことなんて、なんとも思っちゃいないよ。」

「アッシュ、そういう問題じゃないんだ。
大河内さんにとってはなんともない額だとしても、そんなにしょっちゅう世話になってたら、こっちの立場が弱くなる。
それに、こいつは元々金にはルーズだし、金の有り難味もわかっていない。
そもそも……」

「ストップ!
カズ……朝からそんなにがみがみ言わないの。
そんなんじゃ、良い仕事が出来ないよ。
ほら、眉間に皺が寄ってる。
そんな顔しないで、今日もバリバリ働こうよ。」

マイケルに諭され、俺はつい感情的になっていたことに気付いた。
どうしたんだろう……最近の俺はどうかしてる。
なぜ、こんなことくらいでこんなに苛々してしまうのか…