ぼくが育った町は炭鉱しかない田舎の町だった。


父親は頑固な鍛冶職人で子供の頃から家の手伝いを余儀なくされて育った。


二人の兄たちは鍛冶屋を継ぎたくなかったようで成人する頃までに家を離れていた。


ぼくは…貧乏くじを引いてしまったようだ。


親父の最後の跡取りとして、この寂れた田舎町で鍛冶屋を継がなければならないなんて。


嫌だった。


だから15になる前に宙軍の寄宿舎のある学校に願書をこっそり送った。


軍ならどこでもよかった訳じゃない。


宙(そら)に上がりたかった。


宙軍だけが、竜を狩る事を生業としていたから。


竜は人間の敵だった。


竜が空を飛ぶだけで大気中に高濃度の硫酸が撒き散らされ、大地は荒れ草木も育たず、深刻な食料難が発生する。


水も例外じゃない。


この星に生まれた僕ら人間にとって竜は退治しなければならない存在だ。


ぼくが生まれる何十年前までは陸軍、海軍、空軍の全ての部隊で竜を退治していたそうだ。


僕ら人間の何百年にも渡る苦労の末、竜の数も減り、今では3つの軍隊から選抜されて作られた宙軍だけがこの任にあたっている。




ぼくは宙軍よりも、その竜に、なぜか心が引き付けられていた。




竜に憧れて宙軍に入りたいなんて、笑っちゃう話だ。


願書が受理され、試験の詳細が送られてきた晩、ぼくは殴られるのを覚悟で親父に言った。


「宙軍に入りたいんだ。竜をこの目で見てみたいんだ」と。


親父もお袋もぼくを殴ったり止めたりはしなかった。


目に涙をいっぱい浮かべて、本当の事を話してくれた。


ぼくは拾われた子供だった。


不思議と涙は出なかった

何となく想像してた通りだったから。


ずんぐりむっくりの両親にそっくりなのは上の二人の兄だけで、ぼくだけ手足も長く、顔つきも全然似ていなかったから。




ぼくは両親から僅かばかりのお金を貰い、試験会場へ向かった。


それ以来、家には帰ってない。


試験に合格したぼくは入学式までの3ヶ月間、宙軍の口利きで戦闘機の整備工場に住み込みで働かせてもらった。