ぼくがまだ産まれたての赤ちゃんだった頃、世界にはたくさんの大人たちがいた。


ぼくがまだ子供だった時、空も大地もぼくらだけのものだった。


ぼくがはじめて恋したのは同い年のサファイア色の瞳の似合う水竜の娘だった。


ぼくがはじめて喧嘩したのは荒れ地の地竜だった。


ぼくが歳下の金色に輝く美しい連れ合いを見つけた時、空の景色は一変していた。


あんなに、空一面を覆うように飛んでいた竜たちの姿が激減していたから。


大人の仲間入りしたのに大人の数が少なくなったのには理由がある。


ぼくらは人間に嫌われていた。


ぼくらの爪ぐらい小さい人間はぼくらを殺す。


ぼくらは生きるため以外は生き物を殺さない。


人間はぼくらを恐れ、ぼくらを殺す。


なぜなんだろう。


長老から人間だけは殺しちゃならないって教わってきた。


だからぼくらは子供たちに人間だけは傷つけちゃならないって教えた。


子供たちが殺された時、ぼくの連れ合いは、その悲しみに耐え切れず姿を消した…それでもぼくは長老の言葉を頑なに守って、ずっと我慢した。


なぜなんだろう。


答えが見つからないまま時間だけは過ぎて行った。


ある日ふと、世界を見渡した。


空に竜はいなかった。


ぼくが恋したサファイア色の瞳の彼女と過ごした思い出の水辺にも…。


ぼくが喧嘩した荒涼とした荒れ地にも…。


竜たちが消えていた。


ぼくもそのうち人間たちに殺されるのかもしれない。


だから、次はぼくの番。




でも、なぜなんだろう。

なぜ、ぼくらは人間たちに殺されるんだろう。


考えなくっちゃ…ゆっくりと。


ぼくは人気のない渓谷の深い深い洞窟に身を潜めた…ゆっくり考えるために。


消えた連れ合いの無事を祈りながら…。



ゆっくり。
ゆっくり。


ゆっくり考えてたある日

ぼくの身体が淡いやさしい光に包まれた。


ずっと昔に聞いたことある…一万年生きた竜は人に生まれ変わるって。


ぼくは消え行く光の中で人に変わっていった。


一万年生きた記憶と引き替えに…