先輩に恋をする、というのはよくあるパターンだ。だが、後輩に恋をするというのはあまり耳にしない。少なくとも私の近くには、だが。
なぜか先輩が後輩を好きになる、というそれは後ろめたさのようなものを感じる。年下だからといって一つ二つなんて変わりやしないのに。二十歳過ぎたら尚更だろうが、学生である今は結構大きい。そして、先輩後輩というものもだ。
会話は途切れた。
榎本はまだ新着図書の棚の前で吟味したいるようだ。私も後で何かいいのがあったら借りよう。
榎本にしてみれば、私は先輩でしかない。名前すら"先輩"というそれにいっしょくたにされてしまっているだろう。知らなくても困らないから、"先輩"で済む。
「先輩、これ借りたいんですけど」
振り返った榎本に「わかった」と受付へ。後ろを彼がついてくる。
手続きをして、本が榎本に渡る。ああ、もう終わり。あっという間に終わるそれが恨めしくて。けどそれなりに時間がかかったら、それはそれで話のネタがないから困るだろう。
本を受け取った榎本は、背表紙に指を滑らせた。
「勉強、頑張って下さい――――片山先輩」
―――え……?
私が呆然とする中、すでに榎本の姿は図書室にはなくて。
《名前を呼ばれるだけで》
がらりと世界の色が変わった気がした。
了
14/9/13


