本が好きだったが、ここでそんな趣味に浸れる友達は皆無で。進学したらと思った。進学したら、多少はかわるだろう。だが、と私はそこまで思って開かない方の扉がトントン、と鳴ったのがわかった。
ガラスの向こうにいるのは、榎本翔貴だ。空いてますか、というそれにうん、とと返事を返せば彼は普段開ける方の扉へ向かった。
学生服姿があり「前返し忘れちゃって」と。
「あれ、昨日ここ開けてなかった?」
「さぼったみたいですよ。博明と陽祐は外にいたし」
「昼休みのあの賑やかは…」
「たぶんあの二人ですよ。ホース出してなんかやってたみたいだし」
博明と陽祐、というのは図書委員である。まあ、やるときもあるのだが期待はしていない。
じゃあ、と私は返し忘れたという本を受けとり、受付へ。
名簿を見て、そこに榎本が借りている本の名前を参照。そして返却したとチェックし、図書カードを本に戻す。「しまってくるよ」というそれに、私からまた本が離れた。
夏休みであっても、彼は髪の毛を染めたりはしない。ただ、静かに日々を過ごしているのが似合う。窓際に椅子を置いて読書とか。めくるページの音。ほっそりとした指。彼の手は綺麗だった。
ああ、なに考えてるんだか。
「先輩は勉強ですか」
「うん」
「先輩は真面目ですね。本当」
「そう見えて真面目に不真面目だったりするんだよ」
「なんですかそれ」
新着の本が置いてある棚で榎本が笑った。


