「上野さ、夏目漱石が『月が綺麗ですね』をどう訳したか知ってる?」
「え、知らないです」
「『あなたを愛してます』」
なんで、今この二人きりのタイミングで言うんですか?
そんなことを思いながら、高鳴る心臓の音。
「……上野なら、どう訳す?」
「わたしなら、ですか? うーん……難しい……。保留、で」
「ははっ」
「先輩はどう訳すんですか?」
「俺? そんなロマンチックなこと言えるかよ」
「なにそれ、ずるい」
私がそう言うと先輩はまた「ははっ」って無垢な笑顔を見せる。
そんな笑顔をみて、やっぱり思ってしまう。
ああ……好きだなあ。
「先輩……好きです」
海みたいに広がる星空の下で、私は自分の気持ちを口にした。

