あのすずが?

チビだしバカだしドジだし、絶好彼氏いない歴=年齢だし…

意味もなく、廊下を歩きながら、


はたと気付く。


そうか。
俺はすずの中学二年生から高校一年生まで知らないんだったな。


すずの父さんの台詞を思い出す。


『すずはお年頃だからな』





え?


もしかして、


あのチビでバカでドジなすずにも彼氏がいたことがあったんだろうか…


ていうか、今はいないんだろうか…


なんか勝手に彼氏いない歴=年齢だと思い込んでたけど…




そこで俺はまたイライラする。


なんでこの俺がすずのことであれこれ考えなきゃいけないわけ?


『くっそ、意味わからん』


小さく呟くと、俺は髪をくしゃくしゃにしながら、すずの教室に向かう。



『すず〜』

ドアのところに立って、窓際で綾先輩と笑いあってるすずを呼ぶ。


クラスの女の先輩たちが、こっちを見てなにやら話しているが、いつものことなので気にはしない。


『すずちゃーん、綾せんぱーい』

突然、真後ろから声がして振り返るといつの間についてきたのか、篤史がいる。


『なんでお前着いてきてんだよ』




そこへ、すずがトコトコとやってきた。


『剣人、どしたの?また何かわからないこと?』


『あー…、そう、美術室ってどこにあんの?』

後ろで、篤史が
『…プッ』
と笑っているのが聞こえたが無視する。



すずは、わざとらしく、腰に手をおいて、ため息をつく。



『あのね、剣人くん。この前教えたでしょ?しっかり聞いてね。美術室はね、渡り廊下を真っ直ぐに行って、すぐの階段を下りるの。そしてね、右に行くでしょ。それから…えっ…と…右…じゃない、左だったかな…』


ブツブツ言ってるすずの頭を後ろからパコーンと叩き、
綾先輩が冷たく言う。


『すず、それは美術室じゃない。工技室だから』


そして、俺に向かって、
『剣人くんもね、美術室なんてもう何回も行ってて場所なんて分かってるんでしょ。わざわざ下らない質問しにこない!!』
とこわい顔をしてきた。


『一年坊主、ほら予礼がなったよ、早く教室にもどんな』

しっしっ、と追い払う真似をする。


それを見ていた、篤史が
『俺もあんな風に綾先輩に殴られたいっす!!』
とキモい発言をして、
綾先輩にギロリと睨まれていた。