ハンナの足跡

 席を立とうとする僕を、マネージャーが引き止めた。
「別にいいですよ。こんなこと、慣れてるから。…慣れたくなんてありませんけどね。殴られた代わりにとは言いませんけど、どうしてハンナをそんなに?」
「…僕にとって、妹みたいなもんですから。」
「へえ。ハンナはあなたの所へ、突然訪ねたんでしょう?」
「そうですけど…。どうしてそんな事、知ってるんですか。」
「ふふっ。あの子の癖だからね。いつもそうなんですよ。精神状態が不安定になると、知らない家へでも何処へでも行っちまう。一度なんて、そこの通りを歩いてる男に助けてくださいなんて言ったりして。大騒ぎですよ、皆。もっとも、こちらは慣れているから、どうってことないんですけど。」
「そうなんですか。」
「あなたね、本当に、あんまり深入りしない方が身のためですよ。事情を知らない人から見たら、あなたが、あいつに騙されでもしているようにしか見えないでしょう。」
「僕はどう思われても構わないんだ。」
「正義感が強いんですね、人一倍。」