「助けて!」

甲高い女の声が響いた。
辺りを見回すが、何も見えない。

「助けて!」

まただ。
さっきよりも近くに聞こえた。
恐る恐る手を伸ばすが、自分の手がしっかり伸びているのかさえ分からない。

「助けて!」


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ゆっくりと、まぶたが開き、透き通った茶色い瞳がピクリと動く。

明るい光。

その瞳には、天井にぶら下がる裸電球が映る。

そこで初めて、自分が横たわっていることに気付いた。

重く固い上半身を肘で支えながら起こす。

耳の奥では、まだ『助けて』という声が響いてるみたいにキーンと鳴っている。


いったい、目を覚ましてから何分経っただろうか。

ようやく立ち上がることが出来た。

「……だれ、だ」

乾いた唇から漏れる声。

うっすらと生えたアゴひげ。

ボサボサの頭。

両手で顔の骨格を確かめる。

「誰……」

真四角の部屋は、全面鏡張り。

足元には冷たいコンクリート。

真っ白なシーツが掛けられたベッド。

天井の隅には監視カメラにスピーカー。



「俺は、誰なんだ……」