街の西にある丘の上に小さな小さな家があった。ジョニーはそこに独りぼっちで住んでいた。生まれてから今まで、ジョニーはいつも独りだった。だから別にジョニーなんていう名前は必要なかったのだ。誰も彼を呼んだりはしないのだから。
ジョニーの小さな家からは、赤い屋根の家がびっしりと並んだ大きくもなく小さくもない街(とはいってもジョニーはこの街しか見たことがないのだけど)が見えた。ジョニーは毎朝夜明け前に起きて、朝焼けに輝く鮮やかな赤を眺めるのだ。丘の西側、つまり街と反対側の向こうの方には青い海が見えた。夜になると海には、船の明かりと、遠くで光る灯台の灯りがキラキラと瞬いて、夜空の星のようだった。
ジョニーは丘から見える景色が大好きで、こんな景色が見れる自分はなんて幸せなんだろう、と思っていた。だから彼は独りぼっちを寂しいだとか辛いだとか思ったことなんてなかった。独りぼっちでいる間、輝く街も海に浮かぶ星もジョニー独りのものだったから。
ある日、ジョニーが日向ぼっこをしながら気持ちよく眠っていると、1人のおじいさんが丘をゆっくりゆっくり登ってきた。ジョニーは知らんぷりして、海の方を見ていた。もう眠くなんかなかったし、日差しも鬱陶しいだけであった。おじいさんはジョニーの隣にゆっくりと腰をおろして、ジョニーに名前を聞いた。今まで自分の名前なんか口に出したこともないジョニーは上手く話せなかった。おじいさんは納得したように頷いて、自分の名前はトムであること、家は向こうに見える海の少し手前にある街の黄色い屋根の平屋だということ、それと彼が重度の花粉症で秋になると目が見えないほどに瞼が腫れあがってしまうということをゆっくりと話して、最後に「よろしく。ジェームズ君。」と言った。