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「あぁ、最悪」
鏡の中の自分を見ながら溜息をつく。
メイクをしたまま寝てしまったので、肌がボロボロになっていた。
ふと、背後を気にすると、鏡越しに彼の姿を見つけた。
「どうかしました?」
洗面台を使うのかと思い聞くと、細かく首を振った。
それなら、何をしに来たのか?と答えを待っていると、口を開い。
「睦美のスッピンを見に来た」
にんまりと笑って言うと、近付いてきて、後ろから抱きしめられた。
「悪趣味」
鏡越しに目が合った状態で、私は呟く。
「そんなこと言っていいのかな?」
これは、悪だくみをしている顔だ。
少し上から見下ろすような視線に、片方の口角だけを上げた口元。
―――しまった。
瞬間的にそう思った。
「また、スイッチ入ってしまった~」
嬉しそうな言葉と同時に彼の唇が首元に伝った。
くすぐったい。
逃げようとすればするほど、胸に引き寄せられる。
やっぱり逃げ道なんてない。
ふと目の前の鏡を見ると、生々しい光景が目に入り、すぐに目を逸らした。
声にならない声を出してしまいそうになるのを堪えていると、「我慢しなくていいのに」なんて意地悪にささやく。
耳元にかかる息だけで脚に力が入らなくなりそうなくらい、私は彼に溺れていた。
そして、体を向かい合わせにさせると、再び唇を重ねた。
数十分前まで同じようなことをしていたので、この先の流れが想像できる。
でも、私はそれでよかった。
彼に抱きしめてもらいたいと思ったのだ。
崩れ落ちそうになる私を抱きしめたかと思うと、体がふわっと宙に浮いた。
お姫様抱っこだ。
目の前の整った顔を見ると、さっきまでの意地悪な顔ではなく、眉をひそめて少し苦しそうな表情だった。

