「寝て、起きたら、お前いてないんやろ?」
想定外の台詞に思わず吹き出してしまった。
「笑うなよ・・・自分でもガキみたいなこと言って恥ずかしいんやから」
真っ赤になった顔を背けて言う姿が愛おしくさえ感じた。
そして、その背中に自分の想いを伝えた。
「私、先生が寝たら、買い物へ行こうと思ってたんですよ。夜、食べるものないでしょ?」
私の言葉が終わるとほぼ同時に振り返った彼は、まだ不安そうな表情で、「ほんまに?」と聞いてくるので、また笑いがこみあげてきた。
「ほんま、ほんま」
必死で笑いをこらえながら、言ったにも関わらず、彼は怒りもせず、安心した表情で静かに「よかった」と呟いた。
何度も思うが、この人は本当にみんなが『俺様ドクター』と呼んでいる人物と同一人物なのだろうか。
「じゃあ、寝てください」
そう言うと、ベッドに押し込んだ。そうすると、安心したのかゆっくりと目を閉じた。
やっぱり眠かったんやん。
子どものような寝顔を見ると、この人がたくさんの命を助けている医師なんだろうかとも思ってしまう。
改めて見ると、やはり整った顔であることに気付き、見入ってしまっていた。
これで、あんなきついことを言わなかったら、病院でもかなりもてるんやろうなぁ。
そんなことを考えていると、突然目が開いて、目が合ったことに飛び上るかと思うくらい驚いた。
「ど、どうしたんですか?」
もしかして、私が見ているの気付いていた?
私・・・変な女やと思われた?
頭の中は爆発しそうなくらい色んな考えが浮かんできて、それに対して何を言われるかを想像してあたふたしていたが、鋭い視線の彼の考えは、私のどの考えも遠く及ばなかった。

