「キッチンをお借りしますね」
返事も行かずに私はキッチンへ向かった。
「先生は座っておいてくださいね」
私の後を追おうとしていた先生に念を押した。
料理しないんやな・・・・・・。
キッチンは、使ったことがないのでは?と思うくらい生活感がなかった。
鍋とやかんがコンロの上に置かれている以外、特に何もなかった。
本当にコンビニ弁当ばかり食べているんだろうな。
冷蔵庫を開けても、食材らしきものはなく、ペットボトルのお茶と大量の栄養ドリンクだけしかなかった。
何も作れないやん・・・。
買い出しに行くか?お米さえあったらなんとかなるんやけど・・・。
「あの・・・お米はありますか?」
テレビの情報番組を見ている先生は、私の声に反応して振り返ると、私と目が合うように少し背筋と首を伸ばしてから口を開いた。
「流しの下に一応米はあるよ」
「わかりました」
そう返事をしたものの、この状況で存在しているお米は、いったいいつのものなんだろうと疑問が生まれた。
流しの下に座り、扉を開けると、プラスチックの米びつが置かれていて、それを恐るおそる見たが、見た目では異常は見られなかった。
「あの・・・このお米って、いつ買いましたか?」
やはり確認しないと行けないと思い聞いてみた。
すると、リビングからは、「10日程前」と意外な言葉が返ってきた。
「じゃぁ、使えますね。お粥でいいですか?」
立ちあがり聞くと、目を細めニッコリ笑った先生が頷いた。
ご飯が炊ける間に部屋の片づけをしよう。
頭の中で、これからの予定を立てながら、米を研いだ。
「これでOK!」
唯一使われているだろう炊飯器のスイッチを入れると、リビングに戻り、散在している本を拾い上げた。
私がキッチンにいる間に片付けていたのだろう、床に置いていた本の数が減っていた。

