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また1週間が始まる。


私は、足取り重く、病院へ向かった。


いつものように更衣室で着替え、ナースステーションへ行くと、瞬さんが不機嫌そうに丸椅子に座り、カルテに向かっていた。


彼は、昨夜当直だったので、ここにいる。


そしてこれから大学病院に向かう。


本当に、体が心配だ。



「おはようございます」



私は誰に向けてでもなく、そう言いながらナースステーションに入った。


そうすると、さっきまで眉間に皺を寄せていた彼は、顔を上げ、少しだけ口角を上げ、声を出さず「おはよう」と言ってくれた。


しかし、次の瞬間、再び眉間に皺を寄せていた。



「先生、すみません。わかりません」



「はぁ、できるかどうかもわからんのか?」



昨日、夜勤だった木村さんが怒られてるのを横目に、私は仮眠室へ鞄を置きに行った。



どうやら先生が指示した検査が、特殊なものらしく、まだ検査技師さんが来ていないので、わからないらしい。



そして、そのことに対してキレていた。



「先生、その検査は外注になりますが、できます。結果がわかるまで、4~5日かかると思いますが、よろしいですか?」

と検査項目の本を開きながら、助け船を出した。



木村さんにではなく、これ以上、イライラさせたくはなかったからだ。



「あぁ、大丈夫」



立っている私の顔を見上げて、そう言う表情は柔かくなっていた。


せっかく表情が落ち着いたと思ったのに、再び眉間にしわを寄せ始めた。


その目線は、私に向かっているわけではなく、少し後ろに向けていた。


「おはようございます」


明るくさわやかな声で現れたのは、神尾先生だった。


「百井さん、おはよう。今日もよろしく」


佐々木先生がいるから言っているようにしか思えない言い方と、肩に触れてこようとする手に嫌悪感を抱いた。


私は、彼の手を避けるように、1歩離れて「おはようございます」とだけ言った。



「じゃぁ、もう行くけどいい?」



瞬さんは、冷たく言うと、「はい、お疲れ様でした」とビビりながら木村さんは、先生を送りだした。


彼がナースステーションを出て行ったのと同時に、隣にいた神尾先生が私を不機嫌にさせる一言を言った。



「もう少し、愛想よくしないとね。僕みたいに」


はぁ?何言ってるんよ。あなたは、誰にでも笑ってるんやん・・・それが、私は嫌やった。そんなことも知らないで・・・・・・。



「そうですよね~」



木村さんが甘ったるい声を出して、神尾先生の隣にすり寄っていた。



そんな二人を無視して私は仕事を始めた。



あと1週間・・・あと1週間で平和な毎日が戻って来る。