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「どうぞ」
部屋のドアを開けると、彼はいつも自分から入る。
「不審者がいたらいけないから、まだ入るなよ」と以前に言われたことがある。
それだけで、愛されていると感じてしまう。
「おじゃまします」
今はまだ「ただいま」とは言えないけど、いつかそう言う日が来るのかな?
なんて思いながら、ふたりで手を洗い、うがいをする。
外から帰ってきたら、いつも手洗いとうがいをするようにしているのは、私の昔からの習慣で、それは彼の部屋に行った時も同じだった。
病院と言う決してきれいとは言えない空間で仕事をしていると、その菌を家に持ち込みたくない。
別に潔癖症というわけではないが、これだけは譲れなかった。
その習慣は彼も同じで、いつも彼の後について、洗面所に向かう。
鞄を持って、リビングの方へ歩いて行くと、後ろから大きな影に包み込まれた。
「戻って来てくれてよかた」
苦しそうで、少し安心したような口調の彼に抱きしめられていた。
あぁ、幸せ。
こうやってずっと一緒にいたい。そう思った。

