「睦美に手を出すなよ」
ものすごく低い声を出したのは、まぎれもなく目の前の男で、悔しいけれどキュンとしてしまった。
「ふっ、冗談に決まってるやん。前に来てくれた時からわかってたよ。顔に出ないお前が、めっちゃ嬉しそうにしてるの初めて見たし」
「そう言われると、瞬さんは再び窓の外へと視線を向けた。その顔は、少し赤くなっているように感じた」
「じゃぁ、睦美ちゃん、瞬のことよろしくね」
「はい」
「ごゆっくり」と頭を下げると、立ち去った。
嵐のような人やなぁ。
「お前、何、ニヤニヤしてるんや?気持ち悪いぞ?」
料理を口に運びながら、「変なやつ」と呟いた。
「睦美に手を出すな」
私は、声を低くして、少し涼しげな目線で言ってみると、さっき言ってくれたのが頭の中でリプレイされて、自然と顔がにやけてきた。
「ふふふふ・・・・・・」
ずっと、ニヤニヤしている私を見て、呆れるように「アホ」と言う彼は、少し不機嫌そうだったが、本当は怒っていないんだ。
「はぁ、お腹いっぱい」
「よかった、食欲はあるんやな」と言うと、目尻を下げて、少し安心したような表情をした。
それって、心配してくれてたのよね?
ここ10日間で2kgくらい痩せたのがわかったのか・・・?
食べることができているのか?って思ってくれてたの?
「はい、復活しました!」
そう言って、目の前の愛しい人に笑顔を見せた。
「じゃぁ、落ち込んでたんや。まぁ、後で聞くわ」
落ち着いた声で言うと、伝票を手に取り、「いくぞ」と立ち上がった。

