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「おはようございます」


胃透視の準備をしていると、放射線技師の北野さんが誰かにあいさつをしていた。


「おはようございます」


あっ、来た。

少ししんどそうな声やな。

大丈夫かな。


「先生、大丈夫ですか?大変だったんじゃないすか?」


「あぁ、大丈夫ですよ」


少し笑みを零しながら答える人は、佐々木先生。


瞬さんとは呼んではいけない。


そう心に留めて、私は先生の前に出て行った。


「おはようございます」


私の声に驚いた先生は、「あっ、おはよう」とどもりながら言った。


やはり少し疲れた顔をしていた。


透視室に入ると、放射線技師さんとは隔離されるので二人だけになる。


「今日は、睦美が担当なんや」


ニヤニヤしながら言う先生を仕事モードにしようとけしかける。


「よろしくお願いします、先生」


『先生』の部分を強調すると、少し膨れ面をしたが、すぐに「百井さん、よろしく」と仕事モードになった。



「先生、大丈夫ですか?」

「うん、まぁ眠れたから大丈夫かな」


「仕事が終わったら、また戻るんですか?」


「お通夜やからね。明日は休みだから助かった」


「無理しないでくださいね」


「ありがとう」


そんな短い会話を終えた後、患者さんが来て検査が始まる。


そして、今日も質問攻め。


でも私は負けませんよ?


全て完璧に答えて「さすが」って言わせるんやから。



「さすが、よく勉強してるな」


今日も言ってもらいました。


だって、あなたの足手まといになりたくないし、あなたに相応しい女性になりたいから、私は努力は惜しまない。


「先生、お疲れ様でした」


検査が終わり、先生がいなくなった後、北野さんは腕組みをしながら、私に近付いてきた。



「やっぱり、佐々木先生疲れてるんかな?いつもは、付いた子にめちゃくちゃ切れてるのに。百井さん、質問された?」


「されましたよ」


「そっか、百井さんは優秀だから怒られる要素がないんやね」


笑いながら去る北野さんの背中を見て、笑いが込み上げてきた。


片付けをし終わると、昼食を摂るために食堂へ向かった。