ぽたぽたっと落ちた涙が一宮さんの頬に当たった瞬間、彼のまつ毛が揺れて、ゆっくりと瞼が開いた。
慌てて一宮さんから下りて、彼の横に座る。
足も、手も、体中震えて全神経が彼に集中した。
1度寝返りを打った一宮さんは、あたしの方を寝ぼけ眼で見つめて、優しく笑う。
「……絢子」
“あたし”の、名前を呼んだ。優しい声で。
「……っ、いちみやさん……、」
「ありがとう」
何に対して、とあたしが言うより前に、彼は再び目を閉じてしまった。
死んだのかと思ったけれど、まさかそんなはずはなくて。
寝息を立てながら寝返りを打ち、あたしに背を向けた。
『目が覚めて、絢子ちゃんを見たら、寝ぼけて彼女の名前を呼んじゃうかもしれないから。そんなん嫌だろ?』
――呼ばなかった。
彼女じゃなく、あたしの名前を呼んだ。

