「志保さん」

会も終盤へと差し掛かった頃、どこかザラリとした声が耳を撫でた。
肩越しに振り返ると、そこには予想通りの人物が立っている。

「染谷さん…」

「お久しぶりですね。このところなかなかタイミングが合わなくて残念でしたよ。ようやく会えたかと思えばやけに親しそうな男性を連れていたので今まで声を掛けそびれてしまいました」
「……」

正面に回ってくるなり軽快に話し続ける声色とは裏腹に、ねめつけるような視線が痛くて俯きがちになってしまう。

「…あなたは?」
「はじめまして。霧島隼人といいます」

男の値踏みするような視線を受け流しながら隼人が軽く頭を下げる。

「霧島…? はて、どちらの霧島さんでしょうか」
「失礼しました。私、こういう者です」

スッと胸ポケットから出された名刺を受け取ると、染谷の眉間に深い皺が寄った。