「志保、隼人君と会っているようだが、どうだね? 彼は」

このところずっと忙しくて邸に帰ってくることのなかった祖父、昌臣が数日ぶりに帰って来た。久しぶりに朝食で顔をあわせるなり開口一番そんなことを聞いてくる。

「まだ一度しかお会いしていないので何とも…。ただとても優しくしていただいてます」
「そうか。お前が前向きになるなんて珍しいことだからな。焦らずじっくり向き合っていくといいさ」

これまでこのようなことにはいつだって否定的だった志保だ。そんな彼女が悲観的なことを口にしないだけでも昌臣にとっては喜ばしいことだった。

「…お祖父様、どうして彼を私に会わせようと思ったんですか?」

満足げに頷く昌臣を見ながら、志保はどうしても聞きたかったことを口にした。

ずっと不思議だった。
祖父がこれまで引き合わせようとする相手はいつもどこかの企業のジュニアなど、政略的な匂いをさせている男性ばかりだった。自分の立場を考えれば仕方のないことだとわかってはいても、どこにも行き場のない息苦しさを感じていた。

だが今回はこれまでと少し違っていた。
隼人はごく一般人だ。