いつかあなたに還るまで


入り口で隼人が手早くチケットを購入するとそれを手に戻って来た。

「あ、あの! お金を…」

慌ててバッグに手をやる志保に隼人は目を大きくして驚くと、やがてフッと笑った。何故笑っているのかが理解できない志保は手を止めて不思議そうに首を傾げる。

「お金なんていらないですよ。デートなんですから」
「え? でも…」
「それに僕が誘ったんです。僕が出すのが当然でしょう? 志保さんはそんなこと気にする必要ないんです」

…そういうものなのだろうか?
いかんせん男性とのお付き合いが全くない志保にとって、何が普通で何がそうじゃないのかがわからない。でもあまりにも自分の主張を通しすぎるのは相手に対して失礼なことなのかもしれない。

「…わかりました。じゃあ御言葉に甘えさせていただきます。有難うございます」
「はい、ぜひそうしてください。ではこれをどうぞ」

そう言って渡されたチケットには可愛らしい魚の絵が印字されている。
志保はそれを目を細めて見つめた。

「…志保さん?」

何の変哲もないチケットをじっと見つめる様子に今度は隼人が首を傾げる。

「…あ、いえ。ごめんなさい。このイラストが可愛らしかったので」
「…そうですね。じゃあ中へ入りましょうか」

互いに笑いあうと館内へと足を踏み入れた。