昌臣は「儂はまだまだくたばらん!」とお決まりのセリフを口にしていたが、その決意を聞いた時ほんの僅かに顔を綻ばせていたことに、志保も隼人も気付いていた。
好きにしろという昌臣の言葉に思い切り甘えさせてもらうことにし、広大な敷地の一部に二人の新居を構えた。いくらでも望む家を建ててやるという昌臣の申し出は丁重に断り、全ては自分達の力だけで建てたものだ。

生活は完全に独立している上に相変わらず昌臣は国内外を忙しなく動き回っている。同じ敷地にいるといっても顔を合わせることはめったにない。
それでも、何かあればすぐに駆けつけられるという環境は、これ以上ないほどに幸福なものであると実感する日々だった。



そうして全てが落ち着いた頃____


新婚旅行を兼ねて、ようやく約束の地へと二人でやって来ることができた。

一年の中でも最も温かいこの季節は緑と雪景色のコントラストが本当に美しく、行く先々で感動のあまり言葉を失い、涙を流した。
その度に隼人は志保を抱きしめ、額にキスを落とし、優しく優しく包み込んだ。


どこに行くにも手を繋ぎ、寝るときはぴたりと身を寄せ合って眠る。
離れていた時間を埋め合うかのように、二人はいつでも寄り添っていた。


この手で触れているのはもう夢などではなく、本当に愛する人なのだと。