目を丸くして自分を見上げた志保に、隼人が意味深にニッと笑う。


「泣けるときはいくらでも泣けばいい。いくらでも俺がそれを受け止めるから。そしてこれから先は、嬉しい涙をたくさん流していこう。…ずっと、ずっと」


いつか聞いたのと同じようなセリフに、渡されたものを持つ志保の手が震え出す。

「必要な時にはいつだってハンカチを貸すよ。…予備もあるからね」
「 !! 」

スッとポケットから出されたのは似ているようで微妙に違うハンカチ。
それは全く違う時、全く違うシチュエーションで彼から渡されたもの。
その一つが今志保の手に、そしてもう一つが彼の手に握られている。



それは彼との全ての始まり。
それが今、再びこの手に戻って来たのだ。



紺色のハンカチで涙を拭うと、志保は花が咲くような笑顔で隼人を見上げた。

「ハンカチも嬉しいけど、ここで泣けたらもっと幸せです!」
「え? …っ!!」

次の瞬間胸の中へと飛び込んで来た花嫁に驚かされたのはほんの一瞬のこと。


「___喜んで!」


すぐにぎゅうぎゅうに抱きしめ返すと、再び中庭が大興奮の渦へと包まれた。「かーっ、これだからバカップルは!」なんて卓也のぼやきが聞こえたような聞こえないような。


幸せに微笑み合う新郎新婦を、花びらのシャワーがいつまでも包み込んでいた。


<完>