バタンという音が響いたのと、互いの体が密着したのはほぼ同時だった。

どちらからともなく手を伸ばし、引力に導かれるようにその身を寄せて。
そうして自分の中にある小さな温もりに。
自分を包み込む大きな温もりに。
今触れているのはもう夢でも幻でもない、本物の愛する人なのだと。

何度も何度も息を吸い込んで、その存在を確かめ合った。

「志保」

たった一言囁かれただけで、たちまち視界が滲んでしまう。

「…志保」
「……」

いつ零れ落ちてもおかしくない滴をめいっぱい溜めた志保に、隼人のまなじりがゆるりと弧を描く。
…あぁ、この人はなんて優しい顔で笑うのだろう。
さらに込み上げてくる涙を堪えようと無意識に力の入った唇に、ふわりと微笑んだままのそれが静かに重なった。

ツーッと一筋の涙が頬を伝っていく。
唇が触れ合うだけで、想いの全てが流れ込んでくる。
言葉なんていらない。

愛してる。
愛してる。

触れる唇が、漏れる吐息が、細胞の全てでそう伝えている。