「_____シホ!」


遠くから呼ぶ声に、水平線を眺めていた志保が振り返る。

「皆準備できたって。もう戻って来ていいわよ!」
「はーい! すぐ行きますっ!」

はじめの頃はたどたどしかった英語での会話も、気がつけば流れる月日と共になんとかそれらしいものへと変わっていた。

日本を離れてから五年。
今日が異国の地での最後の日となる。



「シホっ!!」
「シホーーーーっ!! かえらないでぇーーーーーっ!!!」

戻って来るなりひしっとしがみついてきた子ども達に、日本を離れるときの光景が思い出されてくすっと笑いが零れた。

「こらこら、あなた達がそんなじゃシホが困るでしょ? 今日はシホを笑顔で送り出す。皆で決めてたことでしょう」
「だって…」
「だっで…さみじい゛んだもんっ!!!」

離れるどころかますますしがみついてびえーんと泣き出す始末。
そんな子ども達の姿に、志保とスタッフの女性は顔を見合わせて笑った。

「ほーら。永遠の別れじゃないんだから。シホのことが大好きなんでしょう? だったら笑顔でお見送りしてあげなくっちゃ」
「……はぁ゛い…」
「グズッ…あ゛ぃ…」

ようやく体を離した子ども達の顔は一様に涙と鼻水にまみれ、その姿がたまらなく可愛くて愛おしい。こうして別れを惜しんでもらえる自分でいられたことを、本当に幸せなことだと感じる。