「あなたとこのお邸で顔を合わせた時、志保様はすぐにあのときの男性だと気付いたそうです。そしてあの時と同じようにどこか悲しげに微笑むあなたから目が離せなかったのだと、後に教えてくださいました」
「え…?」
悲しげに…?
一体、誰が…
「きっと慰めるために何気なく言われた言葉なのだろうけど、あの一言に自分の心は救われた。それと同時にあなたの泣きそうな笑顔が忘れられずにずっと記憶の片隅にあったのだと。…そしてあの日、やはりどこか心に陰を帯びて志保様と対面したあなたに、彼女は運命的な何かを感じたのだと」
「 _____ 」
ドクドクと全身が早鐘を打っている。
「この人は危険、そう肌で感じながらも、それ以上にこの人の傍にいたい。それが志保様の下された決断でした。たとえ傷つくことになろうとも、それが自分で決めたことなら後悔はしないと」
ズキズキと痛むのは一体どこなのか。
「志保様はあの通りお優しい方です。ですが実際には誰にでも心を許すわけではありません。むしろ人一倍警戒心が強く、感情を表に出すのが苦手です。もう何年も彼女のお傍にいる私ですら、彼女の泣き顔を見たことはないくらいに」
そんなバカな。だって、彼女は____
「そんな志保様が、あなたの前では色んな表情を見せていたのではありませんか? 時に泣き、時に怒り、そして心から笑い。私の前でも無自覚に溢れ出てしまうほどに、彼女は幸せなオーラに包まれていました。あぁ、これが本来あるべき彼女の姿なのだと、私は初めて知ることができたんです」
……パタリ、パタリ。
どこからか耳馴染みのない音が聞こえてくる。

