「俺はこの関係に終止符を打つ。理由も里香子の意思も関係ない。約束は守ってもらう」

それだけ言うと男はスッと席を立った。
それに気付いた里香子も弾かれたように立ち上がる。

「待って! 行かないで! 私…私は本気で隼人のことが…!」

歩き始めていた腕にしがみつくと、今にも泣きそうな顔で縋った。
だが男はクッと肩を揺らして笑うと、ゆっくりと振り返る。
その目の冷たさに里香子の呼吸が止まる。

「だったら尚更お前とはこれ以上付き合えない。本気になるなら関係を持たないと最初に言っただろ? その約束を守ると言ったからお前の申し出を受けたんだ。完全なルール違反だな」
「そんな…」

非情に言い渡された言葉に二の句を継げずに固まってしまう。

「じゃあな」

だがそんな里香子の様子を気に留めることもなく、男はうっすら笑みを浮かべると女を残したまま店を出て行ってしまった。