ドクリと心臓が嫌な音をたてる。
彼女は既に、全てを、知っている…?
「何のことですか?」
「……え?」
だがじわりと嫌な汗を滲ませた隼人とは対照的に、志保は全く動揺を見せることなくきっぱりと否定した。
「その方のことは存じ上げませんし、隼人さんが言いたいこともよくわかりません。でも何を言われようと私の意志は変わりませんから。これ以上お付き合いすることはできません。全ては私の我儘です。本当にごめんなさい」
…嘘だ。
里香子の名を口にした時、ほんの一瞬だけ、本当に一瞬だけ志保が息を呑んだのを見ていた。いくら誤魔化そうとも、本人が意識しないところでの変化は隠し通せてはいない。
確かにきっかけは無理矢理で、彼女の望まざる展開だったのは事実だろう。
だがこの俺すらも変えた彼女の想いが偽りだったなどと、どうして今さら信じられるというのか。好きでもない男に身を委ねるような女じゃないのは、彼女自身が一番わかっていることだ。
彼女の見せた笑顔も、怒りも、涙も。
どれ一つとして作り物なんてなかった。
だからこそ自分は変わったのだ。
「志保、聞いて欲しい。俺は____」
必死に言い繕ってどうしようというのか。彼女を幸せにすることなどできないくせに、いざ別れを告げられたらみっともなく動揺し、縋り付いて。
それでも言わずにはいられなかった。
このまま彼女を悪者をするわけにはいかない。
彼女は全てを知った上で身を引こうとしている。

