いつかあなたに還るまで





気がつけば凄まじい勢いで叩きつけていた雨音が消えていた。
嵐のような夜が嘘のように、物音一つしないほどの静寂。
こんなに穏やかな気持ちで過ごす夜は初めてだった。


目の前で安心しきったように眠る志保の髪にそっと触れる。
絹のような柔らかさは、そのまま彼女の心を映しているようだった。

「ん…」

さらりと頬に落ちた髪を指で掬うと、身を捩ってふふっとくすぐったそうに笑う。起こしてしまったかと思ったが、やがてスースーと穏やかな寝息が響き始めた。



愛おしい…



素直に湧き上がってくる感情を否定しようとする自分はもういない。


生まれて初めて感じるこの感情の正体はもうわかっている。
誤魔化すことなどできないほどに、自分の中がその気持ちで溢れているから。
これまで頑なに認めようとしなかった自分がとてつもなく愚かに思えた。


心の底から志保を愛している。


それが紛うことなき己の見出した真実なのだと。