しばらくはそれが現実だと受け止めることができなかった。
どんなに辛い日々も、いつかは自分が母を幸せにしてみせるのだという決意が支えてくれた。
けれど、その目標を失ってしまった自分には何もなくなってしまった。
これから先、自分が生き続ける意味などあるのだろうかと。
だがそんな自分の目を覚ます出来事が起こる。
誰にも知らせずひっそりと行われた葬儀に、あの男が現れたのだ。
今さらどの面下げて来れるのかと、その姿を見た瞬間目の前が真っ赤に染まった。
母の悲劇は全てこの男から始まった。
何の罪もない母を苦しめ、貧しいながらも幸せに暮らしていた自分達の生活を再びぶち壊し、結果母の命を奪った。
殴るだけでは、…いや、殺したところで何の気晴らしにもなりやしない。
母が味わった苦しみ以上にこの男を地獄に突き落としてやりたい。
何かを言いたそうに、だが何も言えずに呆然と母の遺影を見つめるその男に、果たしてどんな復讐をしてやろうかと黒い感情が湧き上がる。
冷めきった目線を合わせようともしない隼人に、その男は長い時間をかけて何かを決意したように口を開いた。
が、次の瞬間現れたその男の妻に、またしてもその場はめちゃくちゃにされた。

