静かに語られるていく壮絶な過去に、息をすることすら忘れていた。
この先を聞くのが怖くてたまらない。
…けれど、今の自分はそれを聞くべきだと思えてならなかった。
「でも現実は甘くはなかった。決して弱音を吐かない母親だったからこそ、その反動で心身はボロボロになっていたんだ。…だから……」
そこで言葉を詰まらせる姿に、志保は無意識のうちに隼人の膝の上で固く握られていた手に自分の手を重ねていた。
しばらくして隼人自身もその手を握り返すと、どこか悲しげに微笑みながら、遠くに想いをはせるように再び話し始めた。
「激務に耐え続けた母の身体と精神は限界に達していて……ある日突然倒れて、それから僅か3日後にはこの世を去ったよ。俺が高校2年の時のことだ」
「 ______ 」
倒れて息を引き取るまでの間、母はひたすらに謝罪の言葉を繰り返した。
私のせいでつらい思いをさせてしまってごめんなさい。
何の楽しみも喜びも与えてあげられなくてごめんなさい。
どうか、どうか幸せになってほしいと。
混濁する意識の中、本当に、最後の最後の瞬間までそう言い残し、母は旅立った。

