「おいお前、愛人の子なんだってー?」
「お前のかーちゃんってろくでなしなんだってな!」
どこから聞きつけたのか、学校に行くとあの騒ぎが全ての人間に知れ渡っていた。露骨に暴言を投げつけてくる者、何も言わないながらもちらちらと蔑むような目線を送る者、引いてはお前なんかこの世にいて許される人間じゃないと暴力を振るう者。
貧しいながらも平穏に過ごしていた生活が、一夜にして地獄のような日々へと変わってしまったのだ。
「ごめんね…ほんとにごめんなさいっ…!!」
その日を境に母の謝罪の言葉を何億回聞かされただろうか。
これまでただの一度も口を割ろうとしなかった母だったが、この期に及んで隠し通すことなど不可能だと考えたのだろう。いや、周囲から歪曲した話を聞かされるくらいなら、自分の口から包み隠さず事実を話すべきだと思ったのかもしれない。
母の心からの懺悔を聞きながらようやく気付いた。
____あの男が自分の父親であることを。
ずっと後になってわかったことだが、あの男は資産家の娘に婿入りした立場で、気の強い嫁に嫌気がさしていたところで母に出会ったらしい。嫁とは対極にいる素直で謙虚な母にみるみる惹かれていき、家にばれることを恐れながらもその関係を終わらせることができなかった。
母が逃げた後も密かに探し続け、やがて母が自分の子どもを産んでいたことを知る。当然そんなことがばれては大事だ。だからといって全く知らぬフリを通すこともできない。
結果、あの男は全てを捨てて母と一緒になる覚悟も、父親であることを名乗る覚悟もなく、自己満足のためだけに気まぐれに訪れては、父親としての責務を果たした気になっていたのだ。

