その後何故か母は逃げるように引っ越しを繰り返した。
だがそのいずれも、その地でようやく落ち着いたと思った頃にその男が現れた。
その度にやはり母は困惑し、拒絶していた。
何かがおかしいと感じながらも、普段なら絶対に手にすることができないようなおもちゃを必ず持参してきたその男の存在は、世の中をまだ知らない、ましてや貧しい生活を送っていた子どもにとっては、まるで季節外れのサンタのように待ち遠しい存在となっていた。
今思えば何一つ事情を話せずにいた母にとって、純粋に喜ぶ我が子の姿を目の当たりにすることは、より一層己の罪の意識に苛まれることだったに違いない。
そんな生活が数年続き、自身にも物心がつき始め、ようやくあの男の存在が何か異質なものであると気付き始めた頃、事態は急展開を迎えることとなる。
「この泥棒猫がっっっっ!!!!」
ある日、買い物を済ませて母と共に帰宅すると、アパートの前で待ち構えていた見知らぬ女に、突如罵声を浴びせられながら母が殴られた。平手打ちだったが、何の構えもしていなかった母の体は勢い余って地面に叩きつけられた。

