「すごい雨ね…」

一時間ほど前から急激に空を覆い尽くした黒い雲は、瞬く間に大地を濡らし始めた。ザーザーなんて可愛らしい音ではなく、バリバリと雷でも落ちたのではないかと錯覚するほどに轟音をあげて屋根を叩きつけている。
まだ夕暮れには早い時間だが、既に夜に足を突っ込んだかのような空模様だ。

「最近はこういうおかしな天気が増えてますね…」
「そうね。るぅちゃんは大丈夫かしら…」
「え?」
「…あ、施設にいる瑠璃ちゃんって女の子なんだけど。前に今日はお母さんとの面会があるって聞いてたから。本人はものすごく喜んでたけど、せっかく会えるのにこの天気だなんて…」

瑠璃は親の育児放棄によって施設にいるが、その後少しずつではあるものの、専門家の力を借りながら共に暮らすための努力を親もしているのだという。多くはないが、面会して遊びに行く機会も与えられている。

どんな親でも子どもにとっては唯一無二の存在。
ましてや幼い子どもにとってはその存在は何ものにも変えられない尊いもの。
起こったことだけを見れば親と会うことが果たしてあの子のためになるのだろうかと思っても、当の本人はそれを心から望み、喜んでいるのだ。

すぐには無理でも、いつか彼らが幸せに暮らせる日が来て欲しいと、心から願わずにいられない。