俺の話を聞いてくれますか?


「杏奈!?」
「うっ……あっ……」
突然苦しみ出した杏奈は膝をついてそのまま地面にしゃがみこんだ。
胸を抑えてしきりに呼吸をしようとする。
俺は何が起こったのか……目の前にいるのが杏奈なのかすら分からなくなるくらい、怖いと思った。

はっと思った俺は杏奈に近寄り背中をさする。
「苦しのか?杏奈?」
杏奈はゆっくり頷いて、ポケットから小ケースを取り出した。
「はぁ……ひとつ……はぁ……出して……」
中にはいくつかの錠剤。
俺は適当に選んで杏奈に渡した。
杏奈はそれをおもむろに口に運んで飲み込んだ。
肩で息をしながらゆっくり落ち着くのを待つ。

しばらくすると杏奈の呼吸が落ち着いた。
額に汗をかき顔色もあまり良くない。
「杏奈……」
声をかけようにも名前を呼ぶしか出来なかった。
大丈夫なわけ無い……
さっきまで、ついさっきまで元気だったのに、今じゃ弱々しくうつむいている。
俺に何ができる?

「あのね……」
杏奈は俺の方を向いていた。
さっきよりも随分と顔色も良くなった。
「ちゃんと話すから……今更だけど聞いて」
腹をくくったようでまっすぐ俺を見る。
俺は縦に首を振った。
しかし、ふとあることを思った。
「水をさすようで悪いけど……歩こう?」
周りを見渡せばジロジロと俺らを見ていく通行人。
杏奈はようやく理解すると立ち上がった。
「そだね……」


佐藤杏奈。
俺の最初に出来た彼女だった。
ぱかってよく笑う無邪気な奴で、明るい感じの可愛い女の子。
笑った時にできるエクボが幼くて、そんな笑顔を見て、俺はだんだん好きになった。
彼女に出会ったのは高一の一学期。
クラスの中でもひときわ目立つオーラの持ち主で、入学式からなんとなく目でおっていたのを覚えてる。
そのせいか、俺は彼女に近づくようになり、彼女の方も俺に近づいてくれるようになった。
今は、付き合い初めて5ヶ月のまだまだ仲いいカップルやってます。

彼女が苦しみ出したあの日は、高一の2月だった。
その日を堺に俺は、今まで以上に杏奈と時間を過ごした。
あの日杏奈に打ち明けられたこと……
俺にとってあの時は、驚いただけで重要さを理解していなかったのが事実かもしれない。