run and hide



 すると暫くの間をあけて、正輝の低い声が聞こえた。

「・・・いや、何でも」

 何なんだよ、気になるけど追求するのも面倒臭いしな。

 うなじの辺りを正輝の指が触れる。私はぼーっとしながらその感触を楽しんでいた。

「・・・はあ~・・・・気持ちいい・・・」

 つい、声が漏れる。

 大事にされてるペットってのは毎日こんなことされてんだろうか・・・。ならもうこのさい、ペットでもいいっす。そんくらい気持ちよかった。

「・・・終わり」

 ドライヤーのスイッチを切って、正輝がぼそっと言った。

 私はうーんとそのままで伸びをして、御礼を言う。

「ありがと。本当に上手かった、びっくりー」

 振り返ると、微妙な表情の正輝が私を見ていた。

「うん?」

「・・・・いや、何でも」

 また同じ返答をして、目を逸らし、ドライヤーをなおしに立ち上がった。

 何だ、あいつ。言いたいことがあるなら言えっつーの。私はソファーの上で、気持ち悪さに膨れる。

 手持ち無沙汰になったから、テーブルの支度でもしようと動き出したら、ちょうどインターフォンが来客を告げた。

 この豪雨の中、立派にピザ屋がご飯を運んできてくれたのだ。素晴らしい。