話しかけることを諦めて、正輝は傘を持って私と並んで歩く。強い雨風で頭だけしか傘では守れず、すぐに腰から下がびしょ濡れになった。

 足がヒールの靴の中で滑ってイライラする。全く、どれだけいい靴だって、雨の中ではヒールなんてちっとも役に立たないんだから!

 あ~・・・裸足で歩きたい・・・。そんな事を考えながら徒歩8分の私の部屋まで歩いていく。

 一人用の傘で二人。ほとんど傘の意味はなくなってしまっていた。

 今日に限ってやたらと遠く感じるな。まだつかないの?もう、雨が冷たくて、足が疲れてきた―――――・・・

 と、思ったら、ついにヒールがマンホールの上で滑った。

「きゃあ!」

「うわ!」

 とっさに私の腕を摘もうとして、正輝まで雨に滑る。

 傘が飛ぶ。

 鞄が宙を舞う。

 私達は二人で水溜りの中へ。

 唯一濡れてなかった頭までもびしょ濡れで、強風豪雨の中、しばらく呆然と座り込んでいた。

 お互いに降りしきる雨の隙間からぼけっと見合う。

「・・・・くっ・・・」

 先に、正輝が笑い出した。

「・・・・はははは」

 私もつられて笑う。

 大人になってから、地面に直接座り込むなんてことない。しかも水溜りの中に。お互いのスーツも持ち物も全部完全に濡れてしまって、降りしきる雨の中二人でゲラゲラ笑っていた。