風が、雨を連れてきた。



 駅から出るところで、私はうんざりして空を見上げる。

 ・・・・何て雨よ・・・。

 文字通り、ザーザー降り。これを日本語で豪雨と呼ぶのね、ってな物凄い雨だった。

 建物の中にもこだまして、普段の駅前の喧騒も聞こえない。

 今朝はバタバタして天気予報をチェックしてなかった上に、一週間前に通勤鞄を変えていて折り畳み傘を出してしまっていた。

「・・・あーあ」

 駅の構内の屋根の下に立っているのに、勢いのよい雨は地面に跳ね返って水滴を私に飛ばす。

 どうしようかなあ・・・。通り雨って感じじゃないし、しばらく待っても意味なさそう。・・・走る?それか、どこかで傘を買って――――――・・・

 思案していたら、ふと目の前が翳った。

 驚いて見上げると、私の頭の上には傘。そしてその傘を持って立つ正輝が、じっとこちらを見ていた。

 風に吹かれて私にかかっていた雨から守られて、私は立ち尽くす。

「―――――驚いた」

 思わず出た私の一声に、正輝も頷く。

「・・・・俺も。翔子と判らなかった。髪型、変えたんだな」

 ええ、2週間ほど前にね。心の中で呟く。

 あああ~・・・折角頑張ってたのに、また捕まっちゃった・・・。

 駅前で突っ立ったままで、私は正輝に向き直る。頑張らなくてもうんざりした声が出た。

「・・・あのねえ、君は暇なの?忙しい営業なら、女追いかけてる暇ないでしょうが」

 肩をすくめて正輝が言った。