run and hide



 私の小さな返事に、マスターは首を傾げた。

「それなら―――――」

「・・・そのシンプルな理由を聞かせてくれ」

 マスターの声に続いて、聞きなれた声が私の耳に届いた。

 ―――――――はっ!??

 パッと、伏せていた顔を上げる。

 入口の傍、コート置き場の影に、正輝が立っていた。

 私の死角になっているところだった。

 私はマスターを振り返る。

 蝶ネクタイに黒ずくめの格好の魔術師のような風貌のマスターは、苦笑した顔で、すみませんと軽く頭を下げた。

「・・・・バレてたようで」


 ・・・・・バレてた?私が隠れてるの・・・。


 がっくりと肩を落とす。

 正輝はゆっくりとこちらに近づきながら、私に言った。

「・・・マスターが隠す前に、お前のストールに気付いた。席にはジン・トニックの飲みかけ。カウンターの中に立ったマスターは挙動不審。あれで気付かなかったら、相当なマヌケだな」

 私は隣に立った男をにらみつけた。

「・・・・もう~・・・。何で追いかけてくるのよ。私はあんたの彼女じゃないでしょ」

 彼女にはしてくれなかったでしょ、長い間。