run and hide



「仕事が忙しいんですか?」

 マスターが優しい声で聞く。私はしゃがんだままで、早く帰れと呪いをかけていた。

 正輝がビールグラスを置いた音。

「・・・・仕事は、そうでもないんですが・・・。別のことで、ストレスが」

 ―――――別のこと。・・・え、もしかして、私っすか?

 マスターの視線を感じた気がしたけど、敢えて上は見上げなかった。

「ストレスはいけませんね」

 また優しくマスターが返す。私をかくまってくれる気はあるようだ。少し、息を吐き出した。

「・・・マスターは結婚されてるんですか?」

 正輝の声。

 グラスを拭いていたマスターが、はい、と答える。私はイライラとしゃがんでいた。

 結婚指輪してるでしょうが!見たら判るだろ!!と心の中で盛大に毒つく。観察力が足りないよね、正輝はさ!

「・・・女の人って、わっかんねー・・・。恋愛と友達は別物ですかね?」

 正輝の問いかけにマスターがまたちらりとこちらを見たのが判った。

 私はまた無視する。

「・・・状況がわからないので、答えるのは難しいですね。彼女さんともめてるんですか?」

 マスターの質問に、いえいえ、と呟きが聞こえた。