run and hide



 あー・・・カップルかあ・・・。これからデートなんだな。ご飯、食べに行ったり映画を観にいったりするんだろうなあ・・・。

 恋人は長い間いないから、バーに入るようになったのはいつも一人でだったんだよねえ・・・。私は正輝に片思いしている間に随分と世慣れてしまった。

 何でも一人でやってきた。メンタル分も、日常的なことも。

 別に苦じゃなかったし、当たり前のことだから悲しくもなかった。だけど、いざ恋人を作ろうと決心してみると、一人でいた期間が長くって今更人に頼ったり甘えたり出来るんだろうか、とぼんやり考えた。

 恋人たちは去って行った。

 マスターが調理に戻り、そして私に出来たての熱いぺペロンチーノを運んでくれる。

 にんにくのいい匂い。急激にお腹が空いてきて、私は人目も気にせずガツガツと食べる。

「・・・よっぽどお腹がすいてたんですね」

 楽しそうに笑いながらマスターがカクテルのお代わりを作ってくれる。

 熱々で、ぴりっと辛くて、めちゃ美味しい~!!またジタバタと暴れたかったけどそれはやめて、私はひたすらパスタに没頭する。

「・・・・美味しい・・・」

 うっとりと呟くとお礼を言われた。

 サラリーマン二人が立ち上がる。ご馳走様、という声を背中に聞きながら、私は綺麗にお皿を空にした。

 入口までお客さんを見送って戻ってきたマスターに、口元を拭きながら笑顔で言う。

「本当に美味しかったです!ありがとう。やっと元気でました」

 マスターは魔術師のような不思議な風貌で、いつものようにニコニコしていた。それはよかったです、と頷いてお皿を下げてくれる。