run and hide



「いらっしゃいませ」

 マスターが笑顔を送ってくれる。

 私は安心して、笑顔になる。

 これよ、これ!これぞいきつけの店って感じよ!!

「こんばんわ。マスター、私すぐにでも・・・」

「ジン・トニックが欲しい、でしょう。疲れたお顔ですよ」

 にこにこと頷いて、スマートに私の為のお酒を作ってくれる。店の一番奥の椅子に滑り込んで、私はウキウキとそれを見ていた。

「どうぞ」

 来た来た~!ゴールドの、私の栄養源!!

 どうしても笑顔になる。そっと、そお~っと、本日最初のアルコールを口にする。

 くううううう~!!美味しい~!!その場でジタバタと暴れたいくらいの喜びだった。

 勿論、そんなことはしてないが。

「・・・はあ~・・・。美味しいです。本当に好き、ここのこれ」

「何よりのお言葉です」

 マスターが頭を下げる。

「お腹空いてるんです。ぺペロンチーノお願いします」

 はい、と笑顔で頷いて、マスターはカーテンの向こうのキッチンに入っていった。

 落とした照明の店内にホッとする。今日は一日パソコンと睨めっこして、全く仕事は進まずに無駄に目だけが疲れた。

 足をぶらぶらさせてほぐす。

 後ろのテーブル席に座るカップルは食前酒だったようで、一杯をそれぞれ楽しんだ後、会計を頼んだ。

 出てきたマスターが会計をするのを、私は見るとも無しに見ていた。