彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)




心なしか、私に向けられる顔は、穏やかな気がした。

夢にまで見た、再会の瞬間。







(は、話しかけないと!)







さっきは、取り乱してしまったけど、もう大丈夫。


早く、瑞希お兄ちゃんに私だと伝えないと。


いや、待って!


もしかしたら、覚えているからこうやって抱き上げてくれてるのかもしれない!


だとしたら、なおさらなんて言えばいいのー!?






(きゃーどうしよ~♪)




嬉しくて、楽しくて。


浮かれていれば、瑞希お兄ちゃんが動いた。







「変な奴。」

「あ。」







小さく笑うと、私をお姫様抱っこした状態で歩き出す。










「ど、どこに・・・?」








どこに行くの、瑞希お兄ちゃん?

どこへ連れていく?

いいえ、どこでもいいです・・・!







(瑞希お兄ちゃんとなら、どこまでもー!!)



「オメーの傷の手当てだろう?」







妄想していれば、耳元で瑞希お兄ちゃんが言った。







「ええ!?て、て、手当!?」

「オメー、目立った傷はねぇーみたいだけど、一応だ。」







そう告げられた時、瑞希お兄ちゃんに抱かれた私は、大きな音楽が流れている車の前にいた。








「す・・・すごい・・・」



(ド派手で高そうな車!!)






それは、この場所で一番目立っていた車だった。





自転車でダイブした時、目に入った紅蓮色。

真っ赤な色のオープンカー。

国産ではない外車。

そこから漂ってくるのは品のいい香りと、にぎやかなメロディ。







ジャジャ、ジャージャー、ェイエ!!







(う、うるさっ!!)


「おい、ボリューム下げろよ!?」

「え~?なんでー?」


「うるせぇんだよ!」


(ですよねー・・・・)






瑞希お兄ちゃんの言葉に、心の中で同意する。

これに運転席にいた綺麗なお兄さんが、口をとがらせる。

はっきり言って・・・アメリカ人あたりが聞いてそうなうるさい曲がバンバン流れている車だった。

しかし、問題はそこではない。






「よぉーお疲れ!」






ぼんやりしていれば、そんな声と共に、車から数人降りてきた。





「すげーな、坊主!いくつ?中坊か?どこ中だ?」


そう声をかけてきたのは、煙草をくわえた男前のお兄さん。





「話は後にしよう。2人共車に乗れ。後ろあけてやるから。」


そう言って笑うのが、眼鏡をかけたお兄さん。





「瑞希、隣でシートベルトしてやりな?」


運転席からそう声をかけるのが、綺麗なお兄さん。





「わーてるよ!ほらよっ!」

「わっ!?」






ぶっきらぼうに言うと、オープンカーの後部座席に私を下ろす。

その隣に、瑞希お兄ちゃんが座ってくれた。






「なんだ、瑞希ー?そいつ、連れてくのか?」

「うっせぇ!文句あるかよ?」




そう言ったのは、私にタイマンを持ちかけてきた百鬼のお兄さん。

いつの間に近くまで来ていたのかわからなかったけど・・・・大男の問いに、瑞希お兄ちゃんは相手を見ることなく言った。






「イベントは終わりだ。俺らはガキじゃないんだから、帰るのがシナリオ通りだろう?」

「終わり・・・?」






その言葉でハッとする。





(待って!今どうなってるの!?アドベンチャー系のゲームで言えば、どのあたり?どうなったの!?)





まさかとは思うけど・・・







(私は、この戦いに関わっちゃった・・・!?)



「そういうことだ。」







私の気持ちを肯定するかのような声。

ギョッとして声のした方を見れば、瑞希お兄ちゃんが私を見てた。

良い笑顔で私を見てる。







「あの・・・・」

「そうだろう、オメーら?」





それは彼だけじゃなかった。

百鬼を含め、車に乗っている全員が私を見ていた。