初めて誰かと喧嘩した日。
私は瑞希お兄ちゃんと6年ぶりに会えた。
ひとしきり泣き続けたところで、瑞希お兄ちゃんは私を抱き上げながら言った。
「見ての通りだ。跡目争いは『羅漢の負け』だ。」
静まり変えるヤンキー達に、冷淡な声で告げる。
「この勝負、円城寺率いる『爆裂弾』の勝ちとする。」
「え・・・?」
そう語る顔は、初めて見る冷えた表情。
同時に、周囲が今まで以上に騒がしくなった。
「待ってください!爆裂弾の勝ちって・・・」
「次の『龍星軍』は、円城寺達が率いるってことすか!?」
「そうだ。」
戸惑いながら言うヤンキー達に、瑞希お兄ちゃんが告げる。
「これは決定事項だ。『初代龍星軍』による公正なジャッジ・・・文句は言わさねぇーぞ。」
「りゅ、りゅうせいぐん・・・!?」
(初代、龍星軍て・・・?)
円城寺君達が奪い合っていた”看板”のこと?
なんでそれに、瑞希お兄ちゃんが口出しするの?
「ま、待ってくださいよ!そんなガキに、あなた方の看板しょわせる気ですか!?」
「あ?」
戸惑う私を抱くお兄ちゃんを見ながら、ドレッドロックスヘアの人相の悪い男が聞く。
これに舌打ちしながら瑞希お兄ちゃんが答える。
「不満か?」
「そうじゃないですが~そんな、いきなり出てきた子供に、看板継がせるのは~先輩方の名前を汚すようなことになるんじゃないかと~」
「族に汚れるも汚れないもあるかっ!!」
「「「ひっ!?」」」
鶴の一声。
そんなことわざが似合う声が響き渡る。
「俺らが作ったもんを誰に渡そうが、俺らの勝手だろうが!?グダグダ抜かすなら、拳でカタつけるかっ!?ああん!?」
「ひ、ひえ!そんな、つもりじゃあ~!」
「遠慮すんな・・・文句あるなら、いつでも遊んでやるぜ・・・!?他の奴らも、この結果が気に入らねぇならこの場で名乗り出な!!」
そう叫ぶと、ゾッとするぐらい怖くて美しい顔で瑞希お兄ちゃんは言った。
「この『龍星軍』初代総長、真田瑞希が、心底納得出来るまで相手してやるからよっ・・・!!?」
「え・・・・・・?」
そうちょう?
「・・・・え?」
あれ?
瑞希お兄ちゃん今、『総長』って言った?
なんか、自分のこと『初代総長』とか言わなかった?
あれ?あれ?あれ~~~~~!?
「あれぇえええええ・・・・!?」
(ま、まさか・・・!?)
無意識の震えに身をゆだねていれば、鬼のような形相の瑞希お兄ちゃんが私を見た。
目が合う。
「あ・・・」
(瑞希お兄ちゃん・・・!?)
お兄ちゃん、総長だったの?
ヤンキーの総長なの?
見た目に反して、怖い人なの?
このトラブルの原因なの?
そうなの?
でも、違うよね?
庄倉みたいなクズじゃないよね?
違うよね?
「だって・・・・私には優しかったよね・・・・?」
かすれる声で、蚊の鳴くような音でつぶやく。
独り言ともいえる私の声に、無表情のままお兄ちゃんが静かに告げる。
「締まりのない顔してんじゃねぇーぞ。」
「あっ!?」
抱き直されたと思えば、瑞希お兄ちゃんの手が私の目元をこすっていた。
「間抜けな顔しやがって。」
(瑞希お兄ちゃん・・・)
そう告げる目は、初めて会った時と同じ。
(私の瑞希お兄ちゃんだ・・・!)
暖かく、優しい瞳だった。


