彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)





手から外れたブレスレッド。

瑞希お兄ちゃんが、私の腕に付けてくれた可愛いウサギのアクセサリー。




「宝物が!!」




思わず叫んで、手を伸ばす。

闇夜の中で光るウサギは、そのまま地面から浮く。




「宝物・・・!?」

「あっ!?」

「なによこれ、レディースアイテムじゃねぇの?」




それを拾い上げたのは、みんなが悪だと語る庄倉。




「か、返してください!大事な物なんです!」




ヤバいと感じ、真面目に言ったのがよくなかったのか。

相手は、顔から出てる血をぬぐい、私を見ながら聞いた。





「お前・・・俺とタイマンする気はないのか・・・?」

「はあ!?君まで何言ってるの!?するわけないじゃんか!?」

「なんで?」

「なんでって・・・争う理由がないからです。」




正直、こいつらがやってることは気に入らない。

でも、わざわざ相手にして闘う理由がない。




「じゃあ、簡単だ。」






私の言葉に、ゾッとする笑みを浮かべる男。








「理由ができればいいんだろう?」







そう告げた瞬間、庄倉が手にしたブレスレッドが手から落ちる。






「あっ!?」



なにするの!?






反射的に円城寺達を押しのけて、ブレスレッドを受け取ろうとしたが―――――――――








「ばいばい。」




――――――――――――――――――ガシャン!!



「あ・・・・!?」







目の前で砕け散るウサギ。

6年間、毎日見ていた可愛いウサギ。

愛着のある大切なお守り。




それは・・・・









「あ・・・あああああああああああああ!?」








無情にも、バーベルによって粉々にされたウサギ。







「わた・・・・・!?」



(私のお守り!)






愛しい人から預かった宝物、砕け散った。

上手く声が出なかったが、宝物へと手を伸ばす。







「ああああ!!」

「お、おい!?」






割れた声を出す私に、円城寺君が掴んでいた腕を離してくれた。

それで拘束が解けた私は、叫びながらそちらへと向かった。








「ああ・・・!!ウ、ウサギ!ウサギがぁ!!」







震える体で、転がりながら、壊れた宝物へと這いよる。






「うそ・・・うそ・・・そんな・・・・!」





砕けた金属の塊。

救い上げたブレスレットの残骸は、ジグソーパズルよりもひどくバラバラになっている。

つなぎ目を合わせてみるがくっつかない。






「うそ・・・うそうそうそ!!」






どんなに合わせてみても、元に戻らない。


完全に壊れていた。







「あはははは!マジかコイツ!!」






熱くなる目で元ブレスレットを見つめ、震えていれば、頭上で声が響く。






「マジだせぇー!女みたいな悲鳴あげてさ!」

「おまえっ・・・!?」





そう言っていたのは、庄倉だった。

楽しそうに、私を見ながら皆に聞こえるように言った。





「こりゃあ、百鬼さんの頼みでも無理だな~こんなのとタイマンなんかしたら、連れてきた円城寺君が恥かくぜ!」


「・・・!!」




笑っていた。


私の大切なものを壊しておいて、腹を抱えて笑っている。






「見ろよ、あの顔!」

「泣きそうじゃん!」

「今さら泣き入れても遅いんだよ、バーカ!」





周りの奴らも笑ってる。


庄倉の仲間も、仲間かもわからないヤンキー達が笑っている。


私の悲しむ姿を見て、手を叩いて笑ってる。


からかってる。




私の大事な・・・












「・・・・・・・・・私と、瑞希お兄ちゃんとの思い出の品を・・・・!」










それが壊された。

砕けたブレスレットが、握った掌に刺さる。

自然と力がこもるるが、痛みは感じない。

肉体的な痛みは感じない。

痛いのは、心。








ユルサナイ。







初めて芽生えた激情に、私は身をゆだねた。

どんな結末になるのか考えもせずに。