「オメーは振り返らず、前だけ見て進め。」
「・・・・瑞希お兄ちゃん・・・?」
「凛がいる場所は、あっちじゃない。俺の隣だ。」
「え・・・!?」
そう告げて、私を抱きなおす瑞希お兄ちゃん。
つないでいた手を、私の肩に回しながら言った。
「凛は、何が食べたい?」
目だけで私を見る彼は、優しい顔になっていた。
いつも見ている綺麗な顔。
やわらかい表情に、早変わりしたのはもちろんだけど、彼が口にした言葉に驚いた。
「た、食べたいって・・・!?え!?俺、瑞希お兄ちゃんの隣にいていいって!?」
「ああ、いろよ。この辺りにさー牛タンが入ったシチューを出す美味い店あるんだ。凛、牛タン平気か?」
「・・・!?」
重要な話題をサラッと流し、何事もなかったように昼食について聞いてくる。
彼だけではない。
「わははははは!同じ肉なら、サーロインだろう!?ステーキにしようぜステーキ!!」
「肉もいいけど、海鮮どんぶりにしねぇ?5名様以上で割引がきく店があるじゃん?」
「あたしピザが良いわ~イタリアンで、パスタとケーキにしましょうよ~」
「和食だな。白米と旬の野菜のてんぷらが良い。」
「オメーら自分の意見ばっかだな!?凛の言い分も聞けよ!?」
「そりゃあ、瑞希も同じだろうーが?」
烈司さんの言葉で、ドッと笑いが起こる。
(なにそれ・・・)
驚きでもなく、呆れでもなく、不思議な気持ちで、呆気にとられてしまう。
(私は、瑞希お兄ちゃんの側にいていいんだ・・・。)
それは確実にわかった。
すごく嬉しいことだったけど、なぜか素直に喜べない。
ありがたいことだけど、切なくなる。
(・・・伊吹陽翔さんのこと、あまり聞かない方がいいみたいだな・・・)
誤魔化されたような、はぐらかされたような気分になる。


