彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)






「大嵐山まで行かねーと・・・!」

「おおあらしやま?」




聞き覚えのない単語。




「どこにあるの?」

「あっちの・・・」




思わず聞けば、意外と簡単に返事をしてくれたが・・・



「あっちの、あれ・・・痛っ・・・!」

「えっ!?ちょっと、しっかり!」




そう説明する男の子の手が、指さした腕が、力なくだれる。

カクンと、ヒモが切れた操り人形のようにぶらぶらと揺れていた。




「ちょっと!?大丈夫!?しっかりしてよ、君!」

「ぐっ・・・うう・・・大嵐山に、大嵐山に行かねぇと・・・!」




呪文のように唱える男。

傷も痛むのか、数回うめいた後で動かなくなる。

静かになった。





(どうしよう・・・)





この状況をどうするべきか。

絶対に病院に運んだ方がいいとわかったが、相手は何かワケアリっぽい。

私自身もワケアリの身でもあるので、なんとなく・・・この時、彼に『同調』したのかもしれない。

自分の身に置き換えてしまったのだ。





(『大嵐山』に行きたいの?でも私、大嵐山がどこにあるのかわからない・・・!)




困ってあたりを見渡せば、あるものが目に入る。





「あっ!?地図だ!」




現在地をのせている公園の地図。

男をかかえながら、近付いて見る。




「大嵐山、大嵐山、大嵐山・・・・!」




携帯の明かりをライト代わりに、地図盤上で目的地を探す。





「大嵐山は・・・あ!ここかな?」





目的の3文字を見つけたのと、視界がまぶしくなったのは同じだった。





「見つけたぞ!!円城寺(えんじょうじ)!!」

「は?」





罵声と一緒に、エンジンのうるさい音がした。

瞬きして、周囲を見渡せば、ガラの悪い男達の集団。





「ヤ、ヤンキー!?いや、チーマー!?」





今までどこにいたのか、単車やスクーターにまたがった若者たちがいた。



(な、なにこれ――――――――!?)



[★凛は囲まれた★]




突然の包囲網に戸惑っていたら、一番偉そうな牛皮の時計をしていた男が言った。





「円城寺!!テメーを大嵐山に行かせるわけにはいけねぇんだよ!」

「え?大嵐山を知ってるの?」

「あん?つーか、誰だお前!?見かけねぇー面だな?円城寺の仲間か!?」



「違う。」





牛皮の時計をしている男の問いに、私の腕の中にいた怪我人が言った。






「RPGの中じゃあ、オメーと同じ一般庶民だぜ、雨宮~?」

「それがオメーの遺言か・・・円城寺・・・!?」


「あの・・・・?」




にらみ合う2人を前に、私はとんでもなく面倒なことに巻き込まれているのかもしれないと思った。