声のした方を見れば、不景気そうな顔の男が花壇のブロック塀に座っていた。
黒の髪を軽く染めてオールバックにした少年だった。
年頃は、私と同じくらいに見えた。
「火、くれねー?」
そう告げる彼の口の端には、火のないタバコが一本。
「火。」
「え?・・・あ。」
(もしかして、私に声かけてるのかな・・・?)
周りに人がいなかったので、そうだと思って返事をした。
「ごめん。タバコは吸わないんだ。ライターもジッポも持ってない。」
「マッチは?」
「ないよ。」
「チッ!」
気に入らないという顔で、こちらに向かってつばを吐いた。
よくされる挑発行為だが、相手にはしない。
不快だけど、これを受けたところで、瑞希お兄ちゃんに会えるはずがない。
だから、知らん顔して行こうとしたが・・・
(待てよ。)
無視して歩こうとしてやめた。
(今夜は、こいつで最後にしよう。)
まだ、最終電車まで余裕がある。
一言聞くだけなら間に合う。
「あのさ・・・」
瑞希お兄ちゃんのことを聞こうと近づく。
それで気づいた。
「うわ!?どうしたの、それ!?」
「・・・あ?」
見れば、相手は全身血だらけだった。
(スカル服のデザインかと思ってたけど違う!)
血しぶき柄ではなく、本物の血しぶき。
かけよりながら聞けば、忌々しそうに男は言った。
「なんだオメーは・・・まさか、羅漢(らかん)の奴等かよ!?」
「らかん?」
「こんな時間に、この辺うろついてるなら、その関係者だろうがっ!?」
「違うよ。見ての通り、ごく普通のVファッションの未成年だよ。」
「俺も未成年なだよボケ!くっそ・・・!付き合ってられるか!」
吐き捨てながら言うと、腰をあげる男。
それに合わせて体を伝って地面に血が落ちる。
「だめだよ、無茶しないで!」
これでますます放っておけなくて言った。
「病院に連れていってあげるよ!さあ、行こう!?」
「うるせぇ触るな!」
助けようとしたのに、相手は私の申し出を拒否する。
「俺は行くところがあるんだ!離せ!」
「何言ってんの!?そんな怪我でどこに行こうって言うの!?無理だよ!」
「うるせぇ!メンツにかかわる!離せ!はなせっ!!ほっとけよ!」
「ちょ、ダメダメ!そんな怪我、放っておけな―――――――」
そう言いながら、男の腕を引けば、あっさりと私の方へと体を預けてきた。
「え?」
預けたというよりも――――――――
「ぐっ・・・」
「ええ!?」
私の方へと、彼は倒れ込んできた。
「わっ!?」
突然のことだったが、相手の重たい体を受け止める。
なんとか、両足で踏ん張って支えた。
「だ、大丈夫!?」
「・・・ねぇと・・・!」
「は?」
私の腕の中、さっきとは違う険しい顔の男子。
苦しんでいる表情。
そんな状態で彼は言った。


